名前のない女たち 

名前のない女たち 名前のない女たち
中村 淳彦 (2004/06)
宝島社
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この本は普通のインタビューものとは趣が違う。
あえて言うなら小説的技法を駆使したインタビュー集ということになるのか。

インタビューにしては、聞き手である中村淳彦が出過ぎているのである。
余計なエピソードを入れ込んでいたりするのである。
女優視点の一人称独白形式に書かれている箇所もあって、ハッキリ言って創作しているのである。
常識で考えればあり得ない話だ。

でもそこがおもしろい。

そもそも、こんな雑誌の取材にAV女優たちが本当のことを語っている保証はない。
全部、嘘だとは思わないが、どんな正直な人間だって、そうそう事実を正確に認識しているヤツはいないだろう。
ましてやウソをつくのが好きな女だっている。
病的なコだっているはずだ。 だから、中村淳彦のこの書き方は間違っていないと思う。

“恋愛”できないカラダ―名前のない女たち〈3〉 “恋愛”できないカラダ―名前のない女たち〈3〉
中村 淳彦 (2006/04)
宝島社

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実際、怪しいところもいくつかある。
たとえば3作目に登場する「恋愛できないカラダ」のあかねさん。
親のあまりにむごたらしい虐待に耐えかねて、中学卒業式の日、始発に乗って成田までいき、そのまま国際線に乗ってニューヨークまで逃げたとある。

パスポートは?

9月からハイスクールに通ったという。

留学手続きは?

疑問符いっぱいの話が展開されているが、中村淳彦は信じたのか、信じたフリをしたのかわからないが、そのまま彼女の話を載っけている。
(※07/01/21追記 事の真相は、中村氏の07年1月20日付けブログ参照)

でも、それがウソでもかまわない。
実際、このシリーズでも「オタク女優」として名をはせた木下いつきが、そのキャラのまま1作目に登場して中村淳彦をうんざりさせていたが、2作目ではそのオタク女の仮面をはずしてぶっちゃけたところを見せたりしている。
中村淳彦も別に裏付け取材のようなものは積極的に行っていないようだ。
あまり意味がないと思っているのだろう。それとも単にいい加減なのか。
いずれにしろ、事実かどうかはこの本のテーマからすると枝葉末節の話だ。

名前のない女たち 2 名前のない女たち 2
中村 淳彦 (2005/09/30)
宝島社

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この本のテーマは、「なぜ目の前にいる彼女は、AVの仕事を選んだのか」ということである。
でもその答えは、本の中で答えているようで答えきれていない。動機らしいものは語られるが、それはどれも皮相的な答えのように思える。
とりあえず、その理屈で納得らしきものはできるが、それでもやはり疑問に思うわけだ。
「なぜ彼女はAV女優をしているのだろうか?」
その問いは、そのまま取材する側の中村淳彦にも跳ね返ってきている。
「なぜエロライターなのか」

自分は何者なのか、何がしたいのか、どうして今の仕事を続けているのか、そんなもの、自信をもって答えられる人間は少ない。答えられたとしてもそれが錯覚でないとどうして言えるだろうか。
でも人は自我に目覚めてしまうとどうしても自問せざる得ない。
なぜ自分は生きているのか。

そもそも小説というのはそういうもんだった。
近代小説、いわゆる純文学といわれるものは、おもに自我をテーマにしたものを言う。
自分とは何か。
何者なのか。
何を知ることができ、何を望んでいるのか。
その命題は他者にも向けられ、普遍的な問いに発展する。
人間とは何か。

この本は、普通のインタビュー集とは違う。
最初は、中村の気まぐれで、いろんな書き方をしたのかもしれない。編集者をダシにして狂言廻しに落とし込んだり、取材対象と直接関係ない話を織り込んでみたり、私小説まがいの書き出しまである。

ただ、あまりにも、いろんな書き方をしすぎている。
最近はそれが少し危うい感じがしなくもない。筆が走りすぎている。
中村淳彦の立ち位置も、実際の彼より保守的な面を打ち出しすぎなようにも見える。

だから、3作目を読み終えたとき、本が予想外に売れすぎて、中村淳彦自体、変なプレッシャーを感じていなければいいが、と心配になったりした。
いっそのこと、小説家になればいいのに。
案外、うまくいくのではないかと無責任なことを考えたりして。

それが小説を書くどころか、AVを作り出した。
ちょっと驚いた。
『名前のない女たち』の手法でAVを作っているという。

やっぱり行き詰まっていたのかな。

そんで、買ってみることにした。しかも当人から直接。
さて、その感想は。

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